青息吐息 [シリーズ作文]

FISHのソロ その8

※関連エントリー '17年10月11日
 「そろそろ衣替えですかね」

Fishの新しいレコードレーベル、Chocolate Frog Recordsは
2000年に5作のオフィシャルブートライブ
(うち1作はファンクラブ会員への配布用)を
リリースしてその活動をさっくりと軌道に乗せます。
ビジネスのスタイルとしては恐らく
ディストリビューターを頼った流通よりも
エンドユーザーに直接手で売ることを重視したと思われます。
これはDick Bros.での活動を通じて
ファンベースの規模を把握していたからこそ可能だったのでしょう。
環境面ではオンライン決済サービスの普及も追い風になった筈で、
まぁこれ時代は大きく変わりつつあったと。

そんなこんなで翌'01年、
再び自らのレーベルから新作が発表されました。

Fellini Days / 2001
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Felliniとは当然(?)Federico Felliniのことで
僕としてはちょっと(かなり)困ってしまうのだ。
何故かと言えば
僕はFelliniの映画を良いと思う感性に全く欠けているのです。
これは単なる好みの問題だからもうどうしようもない。
なので本作に挿し挟まれるFellini本人の声やらなんやら、
諸々のギミックが持つ意味を探る気分になれんのですよ。
加えてこのアルバムの録音メンバーには
前回まで散々書いてきた4人の名前が無いのです。
前作までは誰かしら必ず関わっていたのですが本作には誰も居ない。
だからと言ってアウトプットがFishらしくない訳ではないのだけれど
耳触りに違いを感じるのは確かで、多分これは気のせいではない。

斯様、思い入れの面で
ちょっと書きにくい1枚だということをご承知いただければ。

えーと、本作のキーパーソンは間違いなくJohn Youngです。
John WesleyとFishの3人で全曲を書き、
演奏面でも中心的役割を果たしました。

サウンド面で言うと、本作で鳴っている音は管も弦も
(もっと言っちゃうとピアノも)全部サンプリングです。
ズバリこれが上記した耳触りの違いを生んだ大きな要因でしょう。
John Wesleyの(粘着質な)ギターと
客演の女性ボーカルが必死に人臭さを演出しますが、
全般に名状しがたい硬さ、冷たさが支配的です。
これってFelliniが拘ったセット撮影(の人工感)と
役者の演技の肉体感を音楽的に対比させた
意図的なサウンド設計なのでしょうか?…いやーまさかねぇ。



僕の耳に一番心地よかったのはギターメイン
(モジュレーションエフェクトが気持ちいい)で、
Felliniとはあまり関係なさそうな恋の終わりの歌でありました。
メロトロンサンプリングも効いていて、
しかしFishとメロトロンってのは意外に珍しい組み合わせだったりして。

この曲に限らず本作全般に通底するのは
よりボーカルオリエンテッドであること。
部分的には硬派なロックも捨てていませんが、
前作で音楽的に決着した後どこへ向かうべきなのか
逡巡しているようにも感じられます。
今までは基本的に自分(とその気持ち)を
エゴイスティックに歌い続けてきたFishが
Felliniという客体をモチーフにしたことで
諸々距離感を測り兼ねちゃった節があり、
なんというかこれは色々難しいアルバムですねぇ。

しかし関連エントリーでも触れた通り
もはやFishはその出自を意識することなく
単に「歌い手」としてその存在を確立したという僕の感想は
概ね間違っていないと思います。
んー、当時は寂しかったですよ。
あぁ、この人はいよいよプログレじゃなくなっちゃったんだなぁ、って。

本作'01年のオリジナル版には
Chocolate Frogの自主流通盤と
Snapper Musicによって配給された盤が存在します。
後者は'96年にCastle Communicationsから
スピンアウトして設立されたレーベルで、
恐らくFishは欧州(及びそれ以外の地域)での流通を
補完するために契約したのでしょう。
僕が実際に輸入盤店(確かHMV渋谷だったと記憶)で
最初に買ったのはChocolate Frog盤でした。
また、Fishのウェブサイトで販売されたもののみ
同年後発の〝Fellini Days-Companion CD”を
収納出来るダブルケース仕様だったとのこと。
このCompanion CDもサイト限定販売で、
ライブ5曲とミックス違い4曲を収録していました。
僕はこれ聴いていないのですが、
うち8曲は'15年のChocolate Frog再発3枚組DX盤に
入っているものと同じトラックだと思われます。



実際にChocolate Frogの経営が
どの程度安定していたのかは定かでありませんが、
落ち着いた感じの'02年を経て'03年には新譜がリリースされます。
Federico Felliniに続いてオブジェクティブなモチーフを扱った1枚で、
しかしその音楽は〝Raingods with Zippos”へと
立ち戻ったが如きアウトプットでありました。

次回に続く。
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