やや盛り返し? [シリーズ作文]

なんだかんだ、「陰陽」セット(その5)以外は
1作文1タイトルでここまで来ちゃいましたねぇ。
前回と今回はまとめて1回だろうと踏んでいたのですが
今回そこそこ書けた感があって、結果分けて正解でした。



FISHのソロ その9

この時期のFishは周辺情報に乏しく、大きなトピックとしては
'03年に最初の離婚を経験したということくらいで。
前作からいよいよ国内盤の扱いがなくなり
日本では殆ど話題にならなくなったって感じでしたねぇ。

Field Of Crows / 2003
f9fldocrw.jpg

ジャケットを見れば一目瞭然。
Vincent Willem van Gogh作、
「カラスのいる麦畑」の画中を歩くFish。
ということで、本作のモチーフはGoghです。
Mark Wilkinsonはこれ、ノリノリで描いたんだろうな。
およそ絵を描く人にとって、必ず一度は真似してみたくなる筈だもの。

「カラスのいる麦畑」については
Goghの自死に絡めて諸々興味深い話がありますけれども
ここではほぼ割愛させてください。
理由のひとつは基本本作で歌われているのが「別離」であって
「死」とは遠い印象を受けるからです。
各曲に散りばめられた言葉のパーツは
Gogh最期のエピソードと巧妙にリンクしているのですが、
歌詞の総体が意味するのは全く別のものです。
そしてもうひとつ、僕如きがしたり顔でタネ明かししちゃうのも
面白くないような気がして。
こういう好奇心を刺激する音楽は
自分であれこれ調べたり想像するのが楽しいのだ。

-まぁ、導入として一つ例示しましょうか。



この曲で繰り返し歌われる“hole in my heart”は
Fishの心に空いた穴であると同時に
Goghが自らを撃った胸の銃創でもあると。
主体の心情と客体を不可分に描写するレトリックは
前作から大きく前進していて、
これは英語の分からない僕ですら眩惑された感覚に陥ります。

そしてアルバム本編の終わりに聴こえるのは
一発の銃声とそれに驚き飛散するカラスの群れ。
ぞぞ毛だつような苦い後味。
私生活の失敗(離婚)を芸術(家)の死と結びつける感覚は
やや過激なんじゃないかと思ったりもしますが、
まぁなにしろ非常に秀逸で聴き入ってしまいます。

本作の演奏者達は主に〝Raingods with Zippos”に名を連ねた面々。
Bruce WatsonとTony Turrellは作曲にも携わり
迷いの見えた前作から骨太なブリティッシュロックへ
立ち戻ることに貢献しています。
んー、これ断言は出来ませんけれど
前作のアウトプットはやっぱりFishにとって
しっくり来るものではなかったんじゃないかなぁ。
更にはFrank Usherの復帰もあって
全般にギターが前に出ている印象です。
幾つかの曲(上に貼付の曲も)に聴かれる
アタックレスなギターサウンドは
Bruce WatsonによるE-Bowだそうで、
なかなか面白い技を使ったものです。

それまでのプロセスを含めて
圧倒的「登頂感」のある〝Raingods with Zippos”が
僕のベストであることに変わりありませんが、
こと詩曲の成熟度については本作が勝る気もします。
いや、これ今回の作文に当たってじっくり聴き直してみて
凄くいいアルバムであることを再認識しました。

フィジカルバリエーションは2つ。
'03年オリジナル(11曲)と'16年DX盤(3枚組)。
DX盤の本編に追加ナシ、2,3枚目はデモとライブです。



本作リリース後、Fishはライブに軸足を置いて数年を過ごします。
'05年にはSnapper Musicから2枚組のベスト盤
〝Bouillabaisse”をリリースして
再度流通経路の拡大を試みましたが、
結果約2年で見切りをつけています。
あー、因みに〝Bouillabaisse”について
特筆すべき点はありません。
唯一の未発表トラックだった〝Caledonia”も
「その3」に書いた通りなので。

この間、プライベートでは2度目の結婚も間近と言われながら
Heather Findlay(当時MOSTLY AUTUMN)と破局。
これがひとつの動機となって
'08年に5年振りの新譜がリリースされます。

次回に続く。
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